「いやあ、朝は冷えますねえ…」
寒々と通り抜けて行った風に身を震わせて、神無月はぽつりと呟いた。境内は静かだ。冬の朝は早く、しんと冷えている。いつもどおりの静寂とは違う、どこかそわそわした空気が商店街から神社の方にまで流れ込んできていた。
何年も続いた町内会の祭りだったが、今年は霜月たちが通う高校の文化祭に合わせてより大掛かりな物になっている。神無月も祭りの方に参加したかったが、11月には七五三と言うものがある。曲がりなりにも神主である神無月は、暦町の内外から訪れる少年少女たちにこれまでの健康とこれからの成長を寿ぐ祈祷をするという大切な仕事があった。
ざくざくと境内に散らばった落ち葉を集めながら、ふうと息をついた。白く色づいた吐息が風に流されて静かに消えていく。
「一人で掃除をするほど寂しいものはないですよ、まったく」
戯れにタイムラインで手伝いを募集したものの、もともと人手は期待していなかった。何人も手伝いがいるほどこの神社は大きくない。
「あー寒い寒い。早く終わらせて霜月くんたちの様子でも見に行きたいですね!」
「寒いのはみんな同じだ! なんだ神無月、まだ掃除なんてしてたのか?」
「………極月、あなたこそこんなところで何してるんです」
誰に聞かれることもないだろうと思って吐き出した言葉を拾ったのは、境内の端にある鳥居の下で仁王立ちしている極月だった。霜月の担任でもある彼は、昨日と言わず何日も前から文化祭の準備で走り回り、その勢いのままのんびりと午後を過ごしていた神無月のところへやってきては何かしら「今回の見所は」だの「隣のクラスの出し物が」だのと喚いていた。めいっぱい文化祭や町内会の祭りに参加することが出来ない神無月にとってはただの嫌がらせでしかない。
「これからまだ寝てる生徒を呼びに行くんだ。神無月、お前も来るか?」
「なんで僕が行かなきゃいけないんですか〜? 極月先生は一人でお迎えも出来ないんでちゅか〜?」
「朝早くにせっかく見にきてやったのにその言い草は何だお前!」
「別に頼んでないですしむしろ来なくていいですよ…」
げんなりとした顔をして神無月が呻く。平坦な調子を崩さず箒を動かし続ける神無月を見て、極月もようやく自分の仕事を思い出したらしい。ぞんざいに声をかけて走り去って行った極月の背中を箒にもたれかかりながら見送って、神無月は商店街から聞こえてくる音に耳を澄ませた。
「……お昼はどうしましょうねえ」
文化祭の模擬店を回って霜月を冷やかすか、商店街に並んで居るであろう出店の世話になるか、いつもどおり詠月骨董店に行くか。
せめて昼食をとるくらいの余暇はあってほしい、とため息をひとつ。