暴雨風の傲慢
「極月先生は暴風みたいね」
「なんだそれ。褒めてんのか?」
「さあ、……どうかしら」
はぐらかす言葉と一緒に、如月は薄く笑った。訝しげに眉をひそめた極月を気にした様子もなく、手元の紅茶を一口なめる。
昼下がりの詠月喫茶店。食事時に混みあう店内では、顔見知りは相席というルールが暗黙のうちにできあがっていた。そうして同じテーブルを囲んでからもう数時間が経つ。珍しいことに二人そろって暇を持て余していたのだ。
さほど親しいともいえない如月相手に会話が途切れないのが極月自身驚きだった。
「あなたは正論が好きでしょう?」
「言ってる意味が良くわからんが……正しいならその方がいいんじゃないか」
「たぶん、この町だとその言葉が迷いなく言える人間は少ないわね」
極月はまた首を傾げる。頻繁に言葉を交わす間柄ではないものの、相変わらず如月の言うことは婉曲にすぎて極月にはもどかしい。
意味が理解できないのではなく、わかるだけにもどかしいのだ。何の因果か暦町には一風変わった人間が多い。過去であるとか、そばにいる人間であるとかに縛られて、うまく歩けない人間を極月は身近にいるだけでも数人知っている。本人たちに言ったら恐ろしい剣幕で反論されるのだろうけれど、極月からはそう見えているのだから仕方ない。
「言おうとしないだけだろ、あいつらは」
「容赦ないわね、極月先生?」
「めんどくさがりにくれてやる容赦はねえな」
「やだ、怖い」
ちっともそんなことを思っていない調子で如月が笑う。それを鼻先で払い飛ばした極月は実際のところ、この暦町で誰より正論を恐れているのは自分なのだと分かっていた。
死んでしまった小雪にも、生きているはずの神無月にも、そばにいる嘉平にも、等しく縛られている。けれどそれは極月自身が望んだことで、極月なりに「正しい」ルールでもって今の状態をそれなりに受け入れ反抗していた。極月とその周囲を知る人間は、無神経なまでの強引さで断罪じみたことをする極月のことを矛盾していると詰るけれど。
「先生は強くてずるいものね。知っているわ」
「如月は弱くて小賢しいよな。最近知った」
「あら、最近?」
青年会で知り合ってからだからなと答えて、極月もようやく少しだけ笑う。
自分は強い人間だなどと戯れ言をほざくつもりはないが、おのれが弱いことを自覚したうえで器用に立ち回る人間は嫌いではない。目の前で笑う如月は極月のそれが分かっているのだろう。笑みにゆがむ瞳はひどく楽しそうだ。
「あとはもう少し暑苦しいのがなければ、わりといい人なのだけれど」
「おい、本人を前にして言うか、それを」
自身のいびつな情動も不自然な周囲も、飲み込んでしまえる程度には極月は年をとっていた。それがあまり良い大人とは言えないことも分かっているが、極月はそういう自分がさほど悪いとは思えないのだった。
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