呪いにしか聞こえない

キスをされた、のだと思う。極月は至極曖昧に考えた。思っていたよりもずっと筋の浮いた「おとこ」の手のひらが極月の襟首をつかんで、頭突きでもするような勢いでくちびるがぶつかる。その直前までの切羽詰まった様子に殴られでもするのかと思っていたのだがそういうわけでもなく、勢いの割には痛みもなかったせいで「なんだ、こんなものか」という子供を舐めきった思考しか浮かばなかった。うろたえもしない極月の瞳からそれを読み取ったのか、子供─────霜月はひどく不愉快そうにつかんでいた極月の襟を突き放す。
「むかつく」
「唐突にキスなんぞかましといてなんだ、その言いぐさは」
「別に。こんなのただの前金だし」
「はあ?」
 一回りも二回りも離れた教え子の思考回路は全くもって意味不明で、何度話をしたとしてもきっと極月がすべてを理解することなんてできないのだろうというよくわからない確信だけがあった。
「何回言っても理解しようとしないみたいだから、行動で示そうと思って」
「理詰めで動け。俺は数学担当だ」
「理詰めで説明しても聞かなかったフリした汚い大人は誰だよ」
「………」
「オレ、あんたに何回好きって言ったっけ」
 閉口。幼子にするような丁寧さで言葉を尽くされた時、酔っぱらったことにして黙殺したのはいつのことだったか。どれだけやり過ごしてもめげずに見据えてくる子供は愚かで愛おしいが、すぐに極月の「シャカイテキタチバ」が感情をふさぐ。
 ホモの淫行教師なんて、最悪だ。40の壁を目前にしての再就職は新卒大学生よりも厳しい。
 保身まみれの極月を一瞥して、霜月は馬鹿にしたように少しだけ息を吐いた。
「いいよ、卒業したら残りの分もらうし。ヒイヒイ言わせてやる」
「おい待て、俺がヒイヒイ言うのか」
「オレ、あんたに負ける気しないんだよね。おとなしくオレのものになったらいいのに」
「ふざけんな、三十路のプライド舐めんな」
「そっちこそ、アラフォーのパラメータ舐めてんじゃない?」
 十代の体力とアビリティについて来れるもんならついてきてみれば?
 そう言って霜月はやたらと憎たらしい顔で笑う。
 ちくしょう、ゲーム世代め。ヒイヒイ言わせてやる。
暦質問会/120831:title by 月にユダ